からくり大仏事始(びぎにんぐ)

2008年03月31日




からくり大仏事始(びぎにんぐ)

からくり甚五郎は羽田夢佐衛門春之助という長たらしい名前の住職の寺で、居候を決め込んでいた。
羽田夢佐衛門春之助は元武士であったが、武士の宮仕えに嫌気が差して、今は出家し僧侶になっている人物である。
「春さん、美濃の城下町も平和だねぇ!」
からくり甚五郎が羽田夢佐衛門春之助に言った。
羽田夢佐衛門春之助の名前があまりに長く言いにくいので、甚五郎は”春さん”と呼んでいる。
「そうだねぇ・・甚さん。こういう退屈な平和がいつまでも続くといいですねぇ・・・」
春さんが、ほうじ茶を美味そうにすすりながら言う。
ひねもすのたりの時刻に、こうしてとりとめも無い話をしながら茶を飲むのが、2人の日課でもあった。

「てーへんでぇい!てーへんでぃ!」
突然、寺の門前の方角から、けたたましい声を響かせながら治郎吉が走ってきた。
「大変ですよ、甚さん!春さん!」
治郎吉が息せき切って苦しそうに2人に言った。
「治郎吉っあん!どーしたっていうんだいっ!そんなに慌てちゃって!」
甚さんが、びっくりして言った!
「どーしたもこーしたも股下も鼻の下も・・・・ゲホッゲホッ・・」
治郎吉の咳き込んでしまった。
春さんがほうじ茶を差し出し、茶をゴクゴクと飲み干して治郎吉が続ける。
「また、金持ちんとこの蔵が襲われましたぜっ!」
「ひょっとして、またあの仁王さんの化け物が蔵を襲ったっていうのかい!?」甚さんが難しい顔をして言った。
「そうよっ!材木問屋・美濃屋の蔵から千両箱をゴッソリ盗んでいきやがったのよっ!」治郎吉が、また茶を飲みながら言った。
「60尺以上もあるって噂じゃないですか?その仁王さんは・・・」春さんが言う。
「本物の仁王さんが、そんな悪行するわけがねぇ・・・!!甚五郎が腕を組みながら考える。
「そうさっ!そんでもって、俺はあの仁王さんはからくり仕掛けの仁王さんじゃねーかって睨んでる!」治郎吉が言った。
「甚五郎さんが作った”からくり大仏”と同じ物ようなからくりが、もう一つあるって言うのですか!?」春さんが言う。
「そうとしか考えられん!」甚五郎と治郎吉が、声をそろえて言った。
「あんな大きな仁王像を隠すには、広い場所は必要だ、寺の山門とか、五重塔とか・・・」甚さんが考えながら言う。
「あの大きさの仁王さんがある寺っていえば・・この辺じゃ蓮覚寺しかないでしょうね!」春さんが言う。
「おおっ!そういえば寺の門の両側に、そんくらいの大きさの仁王像があったな」治郎吉が言う。
「では、蓮覚寺に行って、仁王さんを拝んでくるとするか」
そう言うと、3人は蓮覚寺へ歩いていった。

蓮覚寺の山門は巨大で、阿形と吽形の形相の金剛力士像が聳え立つようにあった。
「阿吽の仁王さん・・・なかなかの出来具合じゃないですかな・・・」春さんが、感心しながら言った。
仁王像を眺めながら、甚五郎が言う。
「この作りは・・・からくり仁左衛門のつくりじゃねぇか!」
「からくり仁左衛門って、誰だい?」春さんと治郎吉が言う。
「からくり仁左衛門は、俺の兄弟弟子よ・・・」甚さんが言った。

”からくり甚五郎”と”からくり仁左衛門”とは、飛騨の匠・五代目左甚五郎の元で共に技を磨いた兄弟弟子であった。
だが、からくり甚五郎が名前を受け継ぎ、仁左衛門はそのゆがんだ性格ゆえに破門になった。
仁左衛門は”甚五郎”の名前を襲名できなかったことを、ずっと逆恨みしていた。
そして、破門後からくり仁左衛門はその技を買われて、盗賊・霞の蜘蛛衛門の一味になったらしいと、もっぱらの噂である。

「この桐の木の彫り方といい、仁王さんの顔つきといい、仁左衛門の細工に違いねぇ!」
からくり甚五郎は確証を得たように言い放った!
「するってーと、この仁王さんが夜な夜な町を騒がせてるっていう、からくり仁王さんですかい?」
治郎吉が山門の周りを調べて言う。
「そうよ!きっとそうにちげーねぇ!」甚五郎が強く言った。
「今日の夜は新月だ!盗賊にとっちゃ泥棒日和っていう夜ですね」
春さんが計画を練りながら、2人に続けて言う。
「甚五郎さん!治郎吉さん!俺たち3人で霞の蜘蛛衛門の一味を出し抜いてやろうじゃないですか!
こちらには、甚さんのこさえた”からくり大仏”もあることですしね!
今夜の城下町は、大騒ぎになりますよ!」
そうして、春さん甚さん治郎吉の3人は、蜘蛛衛門の一味を取り押さえる企てを考えたのだった。



草木も眠る丑三つ時の半時前、豪商・三川屋の黒塀の前で春さんと治郎吉が隠れながら、盗賊一味を待ち伏せしていた。
「奴らが狙うとしたら、この小さな城下町じゃ三川屋しかねぇとふんだんだが・・」
治郎吉がカンを働かせて、三川屋を選んだのだ。
「近所で地響きがしたなら、すぐさま甚さんを呼びに言ってくださいよ!」
春さんが、治郎吉に言った。
「合点承知よっ!」治郎吉が言う。

新月の夜、星だけが瞬く夜空に流れ星は、一つ二つ。
犬の遠吠えが、城下町に木霊する。

突然、蓮覚寺の方向からドシンドシンと地響きが聞こえてきた。
「おおっ!からくり仁王さんのお出ましですよぉ!」
春さんが治郎吉に言った。
「ひとっ走りして甚五郎さんに知らせてくらぁ!」
治郎吉が言うなり、脱兎のごとく走り出した。
「治郎吉さん!例の菜種油も忘れないでくださいよっ!」
春さんが叫ぶ!
「おうっ、まかせとき!」
治郎吉が叫ぶ!

案の定、からくり仁王は三川屋の蔵に向かって、地響きをたてながら近づいてきた。
「ちっ!思ったより早くやってきちゃったね!」
春さんが、忌々しく叫んだ!
からくり仁王は盗賊一味の作りなので、早く逃げれるように軽い木材の桐で作られている。
それゆえ、ケヤキで作られた丈夫で重い大仏より早く動けるようなのだ。
「こいつぁ、ちょいとヤバイかもしれませんよぉ・・・」春さんが小声でつぶやいた。

バキッバキッバキッ・・・・!!
三河谷の黒塀を破壊しながら、からくり仁王が千両箱のたんまり入った蔵に近づいていく。
からくり仁王が蔵の壁を壊そうとした、その時・・・・!!
「からくり仁左衛門!ここで会ったが百年目!悪行はゆるさねぇぜ!」
そう叫びながら、甚五郎の操縦するからくり大仏が現れた!
蔵の壁を壊そうとしている仁王の腕を、ムンズッ!と鷲づかみにして蔵から引き離した。
「おお・・お前は・・甚五郎・・!?」
仁王の操縦席から仁左衛門が叫ぶ。
「久しぶりだなぁ!盗賊家業とは落ちぶれたもんだな!仁左衛門!」
甚五郎が言い返す。
「こうなっちまったのも、みんなお前のせいよ!」
仁左衛門も言い返す。
「逆恨みってのも往生際が良くねぇぜ!」
甚五郎が、そういうが早いか、掴んだ仁王を引き倒した。
ドドドドッ~~~~ン!!と地面を揺らし、仁王は転倒した。

「やりあがったなっ!」
仁左衛門が叫ぶと、仁王はすばやく立ち上がった。
「さすが、桐でできているだけあって、素早いぜっ!」
甚五郎が言うが早いか、大仏の右手が仁王の胸辺りにパンチをお見舞いした!
ガァァ~~ン!と木のぶつかり合う激しい音を響かせて、仁王の胸がベコンと凹んだ!
「どうよっ!こちらはケヤキで出来てる上物よ!」
甚五郎がもう一度パンチを出そうとした瞬間、後ろから何物かに羽交締めにされたのだった!

「甚五郎よっ!仁王さんは一人じゃあないんだよ!二人の対で仁王さんよっ!」
仁左衛門が笑いながら言う。
背後から忍び寄った吽形の仁王に羽交締めにされたからくり大仏は、身動きが取れない!
「これで、からくり大仏も甚五郎も、今日で見納めっていうもんさっ!」
吽形の仁王の操縦席で、盗賊の首領・霞の蜘蛛衛門が不敵に笑った。
「くそっ!盗賊の親玉の蜘蛛衛門のお出ましってわけかいっ!」
甚五郎が忌々しくさけぶ!

仁左衛門の操る阿形の仁王が、大仏の胸や頭を容赦なしに殴りつける!
ド~ン!ガ~ン!と、城下町の夜を響かせながら、仁王の大仏攻撃は激しく続く!
その騒ぎを聞きつけた、大勢の野次馬が周りを取り囲み、叫んでいる。
「大仏!がんばれ!」
「大仏!負けるんじゃね~~!」
「マカハンニャハラミタシンギョウ」
しかし、仁王の攻撃は無慈悲に容赦なく続く・・・

「菜種油持って来たぜッ!」
治郎吉が、春さんに野次馬の声に負けない大声で言う。
「おお・・遅かったじゃないですか!」春さんが言う。
「野次馬連中がいっぱいで、遅くなっちまったぜ、申しわけねぇ・・」
菜種油の入った樽の栓を抜きながら、治郎吉が言った。
「仁王が大仏に気をとられている今のうちに、油を仁王の足に撒きますよ!」
と、春さんが号令をかけ、治郎吉と春さんは大仏を殴りつけている仁左衛門の阿形の仁王の足に、菜種油をぶち撒いた。
そして、すぐさま春さんがその油に火を放った!

ゴッ~!と音を立てながら菜種油の火が、仁王の足を燃やした。
「あっちっち・・・!」
仁左衛門は足の火に気がつき、火を消そうとしているが、桐の木は火が燃えるのが早い。
みるみる仁王の足を燃やしていく。
仁左衛門の仁王が慌てふためく隙に、からくり大仏は後ろで羽交締めにしていた仁王を、エイッ!と背負い投げで前方に投げ飛ばした。
ドッドド~~ン!と吽形仁王は背中からもんどりうって倒れ、そのまま動かなくなったしまった。

「次は、お前だぜっ!」
甚五郎は火がついて慌てふためく仁王の胸に、思いっきりパンチを食らわせた!
ガッガガガガァ~~ンッ!
木製の歯車を四方八方に撒き散らしながら、阿形の仁王は文字どうり仁王立ちになったまま停止した。
胸に空いた大きなパンチの穴から、仁左衛門が逃げ出し、何処かへトンズラしたようだ。
野次馬たちが歓声を上げる!
「うぉ~!大仏~~!」
「やったぜっ!」
「ありがたやぁ・・」
「南無阿弥陀仏・・」
からくり大仏に手を合わせて拝む人や、お経を唱える人までいた。

倒れたままの吽形の仁王さんから、盗賊の首領の蜘蛛衛門が捕らえられ、後に獄門打ち首となった。
しかし、からくり仁左衛門は、トンズラして行方知れずのままで、未だに捕獲されてはいない。



「治郎吉っさん、もう江戸へ帰るんかい・・・」
名残惜しそうに、からくり甚五郎と春之助が治郎吉に言う。
「江戸じゃ、かかぁとガキがまってるんでね。また珍しい本あったら持ってきやす!」
治郎吉も名残惜しそうに言った。
「たのむぜ!治郎吉っさん」甚五郎が言う。
「気をつけなされ!」春さんが言う。
「それじゃ、あっしはこれで・・」
そう言いながら、治郎吉が手ふって旅路に出てゆく。
美濃の空は、天下御免の晴天であった。





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昭和猫町三丁目 ワイルド・キャット電気店

2008年03月30日



昭和猫町三丁目 ワイルド・キャット電気店

ワイルド・キャット電気店の山猫のジョンが、今日もCDの音楽を流しながらリアカーを引いている。
音楽は懐かしいフォークソングを流している。
「まいどぉ~!ワイルド・キャット電気店でございます!
いらなくなった電化製品、壊れた電化製品、どんな電化製品でも買い取ります!
メザシ、シシャモ、アジのヒラキ、ホッケの干物などと交換いたします。」
しかし、物を捨てない昭和猫町の住人が電化製品を売ることはあまりない。
電化製品は言うに及ばず、ほかの物も大切に修理して使われるので、粗大ごみなどほとんど出ない。

誰かがジョンを呼びつける。
「ワイルド・キャット電気さ~~ん!」
遠くで呼びかける声の方角に向かって、ジョンはリアカーを走らせた。
閑静なお屋敷の前で、上品そうな奥さんがジョンの来るのを待っていた。
「ワイルド・キャット電気さん、扇風機が壊れてしまったの、引き取ってくれる?」
その女の人がい言う。
「はい、扇風機でも何でも引きとりますよ。この扇風機だとメザシ5匹ですね」
山猫ジョンが言った。
「メザシ、も1匹おまけして」奥さんが言う。
「じゃあ、メザシ1匹おまけねっ!」
ジョンは、壊れた扇風機とメザシ6匹と交換した。


ワイルド・キャット電気店に戻って、ジョンは壊れた扇風機の修理を始めた。
いくつかの螺子をはずし、モーターの部分を覗いている。
パカリと開いたモーターの中には、グッタリと疲れきった、栗鼠の林太が居た。
「もう、だめです・・・何か食べ物をください・・・」
瀕死の栗鼠の林太は、ジョンに向かってたのんだ。
ジョンは、あわてて修理棚に置いてある大きな瓶の中から、大粒のドングリを林太に差し出した。
栗鼠の林太は小さな手で、そのドングリを掴むとガリガリと食べはじめ、あっという間に1個なくなってしまった。
「まだ、ダメです・・」
栗鼠が言うので、ジョンは大粒のドングリを3個、林太に食べさせた。

ドングリを食べ終えると、一息ついた栗鼠の林太が言った。
「ふぅ・・・・やっと元気がでましたよ・・」
ドングリの瓶の蓋を閉めながら、ジョンが言う。
「いったいどうしたっていうんだい?」
栗鼠が、お腹いっぱいで丸くなった、腹をなでながら言う。
「おそこの奥さんはケチでね、餌をあまりくれないんですよぉ・・・!」

昭和猫町の電気製品は、ほとんどが栗鼠やモモンガやネズミやヤマネが動かしている。
電気で動く製品もあるのだが、電気が高価なうえに不足がちである。
したがって環境面での配慮もあり、こうした小動物たちの原始力にまかせてあるのだ。
モーターで動くものは、動物たちにまかせているものがほとんどである。
自動車などは、形はガソリンで動いているように見えるが、実のところただの自転車であることが多い。
モーターで走っている自動車も、モーターの中では猫やイタチが走り回しているのである。

栗鼠の林太は、愚痴をこぼしながら、ジョンの入れたコーヒーを飲んでいる。
「あそこの奥さんは、お金持ちと言う噂だったけど、そうとうなケチでしたよ」
ジョンが言う。
「1日ドングリ20個が契約条件なのになぁ・・・」
林太が怒りながら言う。
「1日3個しかくれない日もあったんですよ!」
「そりゃあ、ケチ過ぎる!」ジョンも同意した。

「また、他のところで扇風機を回すかい?」
ジョンは栗鼠の林太に言った。
「ああぁ、そうだね。今度はちゃんと餌をくれる人んところでね!」
「じゃぁ、また扇風機を売りに出すよ!」ジョンが言う。
「OK!」林太も言う。

ワイルド・キャット電気店の店先のショーウィンドーには、ピカピカに修理された、栗鼠の林太動力の扇風機が並べられた。
林太は、扇風機が売れるまでの間ジョンの家で居候することになったようだ。
  

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昭和猫町二丁目 三毛猫古書店

2008年03月29日



昭和猫町二丁目 三毛猫古書店

三毛猫古書店は、先代の雄の三毛猫・ミケ之助から受け継いだ、虎猫の寅次郎が店主をしている。
寅次郎の飼い主が「男はつらいよ」の車寅次郎のファンだったので、その名前がついたのだ。
三毛猫古書店は年がら年中経営難で、いつ潰れてもおかしくないのだが、なぜか半世紀近くも続いている。
この古書店で一番高価な古書は、「解体新書」の写しである。
化け猫・ミケ之助の5代目昔の飼い主が、杉田玄白から解体新書の写しの以来を受け、そのまま手元に残ってしまった古書であるらしい。
時価数千万円とも言われているが、買い手はまだ見つからないようである。

三毛猫古書店は、昭和猫町2丁目の古い町並みにある小さな本屋であるが、化け猫界では結構名の知れた店である。
それは古書店としてではなく、旅人をタダで泊めてくれる、奇特な宿泊所として有名なのであった。
化け猫はもちろんのこと、狸や狐や河童や妖精、はては人間のヒッピー連中まで宿泊しに来る始末である。
そんな古書店なので、今日も三毛猫古書店は客にもならない連中で満杯だった。

「ところで、昨日帰っていったポン吉さんは、どこの化け猫だい」
狸のタヌ二郎が寅次郎に言った。
「え・・ポン吉さんは、人間のヒッピーだよ!」
寅次郎が言う。
「えぇぇ~!人間だったの、とても人間には見えなかったよ!」
隣で聞いていた、狐のコン三郎が驚いていった。
「まぁ、人間といってもヒッピーなんぞ妖怪寄りの生物だからね!」
何か分からない生物の甚左衛門が笑って言った。
「甚左衛門さんも、どんな生き物か不明ですよね?」
狸のタヌ二郎が言う。
「うん、500年も生きてるが、自分が何物だかさっぱりわからん!」
甚左衛門が腕を組みながら言う。

「ごめんくださいよ!」
と、店先から声がした。
「お客さんだよ!」
と狐のコン三郎が寅次郎に言う。
「はいっ!いらっしゃいませ!」
寅次郎が金持ちの紳士のような風体の客にむかって、ていねいに言った。

「解体新書を買いたいんじゃが・・・」
そう言いながら、大きなバッグから、その紳士は札束をドンと出した。
「ここに3千万円ある、例の解体新書を売ってくれ!」
札束をチラつかせるように紳士が書棚を覗きこんでいる。
「例の解体新書ですね、わかりました!」
寅次郎は、そう言うと奥のほうの棚から、桐箱に入れてあった解体新書をとりだし、その紳士に渡した。
紳士が言った。
「うむぅ、これがあの解体新書か・・・売ってくれて、ありがとう」
紳士は、寅次郎に3千万円を私、店を出て行った。

「すんごいね!!3千万円だよ!」
狸のタヌ二郎が仰天しながら言う。
「3千万円あれば、狐うどんが100杯は食べれるね!」
狐のコン三郎が言った。
寅次郎がまったく動揺せずに、平然と言った。
「あれは、木の葉のお金だよ!」

「ええぇぇぇ!!」
一同は声をそろえて言った。
「そんな木の葉のお金に、解体新書など渡していいのかい!」
甚左衛門が言う。
「大丈夫だよ!」
寅次郎が、茶をすすりながら言った。
「あの解体新書も、トイレットペーパーで作った偽者さっ!
あの紳士は、いつも来る、四丁目の狸のシガラキさんだよ。
お金持ちごっこをするのが趣味なんだ」

今日も三毛猫古書店は、賑やかだが儲からない。






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ネオ田沼意次の野望

2008年03月28日



ネオ田沼意次の野望

「もう蕎麦の代金が三両もたまってますんで、払ってください」
蕎麦屋の主人が、田沼意次の親衛隊の侍たちに向かって言っている。
「なにぃ!俺たちに金を払えだとぉ・・・生意気な奴、こうしてくれるわ!」
そう言うが早いか、無頼の侍たちは蕎麦屋の主人に向かってライフル銃を数発ぶっ放した!
ドーンドーンという音と共に、蕎麦屋の主人が血を流して倒れた。
「俺たちに従わない奴は、みんなこうなるんだ!」
田沼の親衛隊の侍が、騒ぎを見ていた群衆に向かって叫んだ。
倒れて死んだ主人にひれ伏して蕎麦屋の女将が号泣している。
それを見た無頼の輩が言う。
「もう後家さんになっちまったんだ!俺のところへ来て妾ににでもなれ!」
女将の腕をムンズと掴んで、侍たちは武家屋敷の方角へ消えていった。

「ひでぇ奴らもあったもんだ!、酷すぎるぜ・・・」
蕎麦屋の影から見ていた、ラットマン治郎吉が小声で言った。
「それに奴ら、20世紀のライフル銃まで持ってるってのが怪しすぎるぜ!」
治郎吉は、顎に手をやりながら考えている。
「今晩あたり、田沼意次の屋敷にでも偵察にでも行って見るとするか」
まだざわめいている通りを眺めながら、治郎吉も何処かへと消えていった。


「今晩は月も今夜は出ていないようだ・・・勿怪の幸いだ」
治郎吉は、田沼意次の屋敷の天井裏に忍び込んだ。
「おお・・ここだぜ、田沼の部屋は・・・」
と小声で言った治郎吉の近くで、人の気配がする。
「お・・おめぇ・・誰だっ!」

「あっ!お前・・ラットマン治郎吉じゃないか!」
JP11が驚いて言った!
「しっ!声を出すんじゃないっ!」JP3が人差し指を口にあてて言った。
「あ、あんたら、時間警察の刑事じゃねーか、こんな所で何やってんだよ・・」
治郎吉も驚いて言う。
「治郎吉・・・やっぱり生きてやがったんだなっ!」JP3とJP11が同時に言った。
「生きてて悪いか!そう簡単に死んでたまるもんか!」治郎吉が答える。
「お前も、こんな所で何してる?」時間刑事のJP3が言う。
「なにやってるって、田沼意次を偵察してるのよっ!」治郎吉が言う。
黒ずくめの忍者スタイルのJP3が、治郎吉に向かっていった。
「あの田沼意次は偽者だっ!これを見ろ!」
トリコーダーを見せながらJP3は、下の部屋で密談をする田沼意次の生体反応のデータを見せた。
「こ、こいつぁ・・・・24世紀の人間か・・・・」治郎吉が驚いて言う。
「そうだ、あいつは、タイム・トンネルを潜ってやってきた24世紀の独裁者タヌーマンなのだっ!」JP3が言う
「24世紀に、人類を滅亡させようとしたあいつなのか・・・」治郎吉が驚嘆した。
「独裁者タヌーマンは、この時代で世界制服をもくろんでいるらしい。核兵器まで準備してな!」JP3が忌々しく言う。
「核兵器まで作ってるのか、奴は!」治郎吉があきれて言う。
「今ここで撃ち殺してやる!」JP11が逸って言った。
「だめだ、ここで奴を殺しても歴史はもとに戻らん・・・本物の田沼意次を助けなきゃな・・・」JP3が考えながら言った。
「こで騒ぎをおこしちゃ、俺たちの命も危ねーぜ!なにしろ冷酷な親衛隊は何百人もいるからな」治郎吉が言う。
多勢に無勢、いくら未来の武器をもってしても、これだけ大勢に囲まれては逃げ切ることはできないだろう。

「この江戸がおかしくなっちまったのは、3年位前からだぜ」
治郎吉が言う。
「そういえば、3年前には日光の東照宮で家康の大法要があったな」
JP3が思い出しながら言う。
「そうだ、あの時に本物の田沼意次も参列したらしいが、そのとき入れ替わったんだろうな!」
治郎吉が、腕を組みながら言った。
「歴史が変わってしまったターニングポイントは、3年前の日光東照宮だっ!」
JP3が言うと、JP11もうなずきながら同意した。
2人は、腕のタイム・ブレスレットを操作し、3年前の日光へとワープしていった。
「お、おい・・俺を置いてくなよ・・」
そう言うと、治郎吉もブレスレットで東照宮へワープしたのだった。



大法要を終えて、岐路に着こうとしている田沼意次の行列の前に、3人は突然出現した。
現れたと同時にレーザーガンを麻痺にセットし、田沼の家来たち数十人を気絶させた。
「こんなに家来が大勢だと、話がややこしくなってくるからな」
JP3が申し訳なさそうに言った。
「仕方ないでしょう、家来には眠ってもらった方が安全ですから」
JP11が言う。
「しかし、あんたらも派手だね!」
治郎吉があきれて言う。

豪勢な籠の中で田沼意次が何か言っている。
「どうした?なにが起こった?」
「わたしたちは、日光の天狗でございます、田沼様をお守りに参上仕りました!」JP3がもっともらしく言った。
「・・・えぇ・・天狗って・・・」治郎吉が驚いて言う。
続けてJP3が、田沼に言う。
「田沼様を暗殺しようと企てる無頼の輩が、もう直ぐ現れます。さあ、こちらへおいでください」
そう言いながらJP3は、田沼を大名籠から連れ出し、近くの森の中へ隠した。

静まり返った籠に、突然小型のミサイルがどこからとも無く打ち込まれ、ドーンと言う爆音とともに大名籠は跡形も無く消滅した。

「奴らが来たぜ!」治郎吉が言う。
「レーザーガンを最大殺傷にセットしとけよ!」JP3がJP11に言う。
最大殺傷にセットされたレーザーは死体を蒸発させてしまう威力がある。
時間刑事らの、その時代に証拠を残さないための手段でもあった。

独裁者の手下が十数人現れ、田沼意次の籠のあたりでうろうろしている。
その隙に、3人はレーザーを浴びせかけた。
油断していた独裁者軍団は、アッという間もなく舜殺で消えていった。

「しかし、独裁者のタヌーマンがいないのは・・・」
・・・とJP3が話している瞬間、彼の背後からレーザー光線が放たれ、JP3はもんどりうって地面に倒れた。
治郎吉とJP11は、背後から忍び寄ってきた独裁者を、同時に撃った!
タヌーマンは一瞬に蒸発した。
「JP3~!!」
2人は、JP3に駆け寄った!
「うう・・」と唸りながらJP3は気がついたようだ。
「死んだかと思ったぜっ!」治郎吉が言った。
「こんあこともあろうかと、体全体にフォースフィールドをはっておいたのさっ!」JP3が言った。
「びっくりさせるぜっ!」治郎吉が言う。
「俺のこと心配してくれたのか・・・」ふふふっと笑いながらJP3が言った。

杉の大木に身を隠していた、本物の田沼意次が近づきながら言った。
「おぬしたち・・・何物・・?天狗には見えんが」
面妖な顔つきで言う田沼の言葉をさえぎるように時間刑事が言う。
「ゆえあって人間の形に身をやつした、天狗でござる。」
納得しかねる様子だったが、意次は言った。
「そうか、それはかたじけない・・・それにしても、きゃつめらは何故ワシを襲ってきおったのだ?」
「それは、聞かぬが花ということに・・・」口ごもってJP3が言った。
「それより、あんたの家来を起こさなくてもいいんですかい?」治郎吉が田沼に向かって言った。
「おおそうじゃな、そうしよう・・」そう言いながら、田沼は気絶した家来を起こしに行った。

「これでこの件は一件落着ということですね!」JP11が言う。
「まぁ、そーゆーことだな」JP3が言った。
「でも、このラットマンの件はどうします」JP11が言う。
「えっ・・俺のこと・・・」ラットマン治郎吉があせって言う。
「ラットマンは猫に食われて死んじまったよ!」JP3が言う。
「しかし・・!」とJP11。
「間違って報告したとなると、始末書とか大変だしな・・」JP3が言った。
「そうですね・・」JP11も答えた。
「さぁ、帰るとするか」JP3がJP11に言う。
「はいっ!」JP11が言う。

「たっしゃでな!」治郎吉が2人に言った。
「死んでる奴にさよならは言えねぇ・・・」JP3が言う。
「なんか江戸弁になってませんか?」JP11が言う。
「おおっと、そうかい?・・・じゃ、あばよ!江戸時代!」
そう言いいながら時間刑事の2人は、もとの時代へと消えていった。

田沼意次の家来たちが目を覚まし始めた。
「おおっと、いけね!俺もおさらばだっ!」
そう言うが早いか、治郎吉ももとの江戸にワープして行った。


「おーい、いま帰ぇったぜっ!」
八件長屋につくなり、治郎吉がかみさんに言う。
「いつまで、ほっつき歩いてんだよ!味噌汁が冷めちまったじゃないかい!」
「おう、すまねーな、汁飯にでもして早ぇーとこすませて、子作りに励もうじゃねーか、なぁ・・・」
「いやだねぇ・・・おまいさん・・・」
「まんざらでもねーって、顔つきだぜ、おめえ・・」
「もうっ!」
江戸の夕日が静かに沈んでゆく。





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ラットマン治郎吉

2008年03月27日



ラットマン治郎吉

夜の大江戸八百八町に「御用!御用!」の捕り物の大声が響く!
「鼠小僧治郎吉!神妙に縛につけ!」
同心の近藤勘助が叫ぶ。
「もう捕まえたも同然ですね!JP3」
岡っ引きのさね吉が、同心に向かって言った!
「さね吉!近藤様と言え!そのJP3はいかんっ!」
同心の近藤がさね吉の口を押さえて言った。
「そうでしたね、つい・・・」

同心の近藤の正体は、日本の”時間警察”のJP3という犯罪捜査官だった。
手下のさね吉の正体も、JP3の部下のJP11という捜査官だったのだ。
時間刑事の2人は、通称”ラットマン”と呼ばれている時間犯罪者を追って、はるばる江戸の町までやってきたのである。

時間警察の刑事は、怪しまれぬようその時代の人物に変装しなければならない。
JP3は同心に、JP11は岡っ引きに変装していた。
追跡してきたラットマンは”鼠小僧治郎吉”と名乗って、江戸中を騒がせているのだ。

「治郎吉は義賊と呼ばれ、江戸じゃ有名らしいですよ」
さね吉ことJP11は、同心のJP3に言った。
「義賊だろうが何だろうが、時間を乱す奴は逮捕する!それが俺たちの任務だっ!」
同心の近藤は、腕にはめたタイム・ブレスレットを指差しながら言う。

25世紀のタイムマシンは小型化され、ブレスレットの形をしている。
厄介なことに、ラットマンはタイム・ブレスレットの他に、ベルト型の物質変換装置を装備していた。
通称”トランスフォーム・マシン”とも”T・M”とも呼ばれ、物や生物を何にでも変形させてしまう。
ラットマンと呼ばれているその男は、彼がネズミになって追っ手の目をくらますのが有名なので、その名前が付いた。

「鼠小僧!!腰に光るT・Mが、ラットマンの証拠だっ!」
JP3同心近藤が言う。
「ラットマンめ!今度こそ逃がさん!!」
JP11さね吉が言う。

大江戸の屋根づたいに鼠小僧が走り抜ける
木造の瓦屋根をカタカタ音をさせながら、ラットマンこと鼠小僧治郎吉は逃げ続ける。
「しかし、おめーら時間警察もしつっこいね!」
治郎吉が大きな声で、同心と岡っ引きに向かって言った。
「俺も、江戸で平和に暮らしてんだよ、ほっといてくれないか!」
治郎吉が続けて言う。
同心の近藤が、屋根にいる治郎吉に向かって叫ぶ。
「何が平和に暮らしてるだよっ!充分町を騒がせてるだろう!」

「俺は、今じゃ義賊で通ってる有名人よ!貧乏人たちが待ってるんでな!」治郎吉が答える。
「そんなことやってたら、時間の流れが変わってしまう」だろう!」同心が言う。
「知ったこっちゃね~!!」治郎吉が言う。
「止まれ!撃つぞ!」
そう言いながら、同心と岡っ引きはレーザーガンの銃口を、治郎吉に向けかまえた。

「おおっと!レーザーガンとは穏やかじゃないねっ!」
治郎吉は、とっさに物質変換装置に手をかけようとした・・・
瞬間、同心の近藤が放ったレーザーが、治郎吉の手をかすめ、治郎吉は屋根から滑り落ちた。
「鼠に変身しようたって、そーわいかねぇ!」
岡っ引きのさね吉が、屋根から落ちて倒れている治郎吉に縄をかけた。
「もう観念しろ!治郎吉!」同心が言う。

縄にかけられた治郎吉は、いきなり物質変換装置に手をやり、鼠に変身した。
とたんに縄が外れ、鼠になった治郎吉が、路地裏に逃げ込んだ。

「くそっ!逃がすもんか!」同心と岡っ引きが同時に叫ぶ!
2人が追いかける目の前を、ドブネズミが走っている。
「鼠が小さすぎて、レーザーガンは無理だ!」同心が言った。
そう言っている2人に前に、突然犬ほど大きな三毛猫が現れ、走っている鼠にいきなり食いついた。
が、早いか猫は鼠を、あっという間に食い尽くしてしまった。

「ぎゃっ!」
と叫び声が聞こえたが、もはや遅し、哀れ治郎吉は三毛猫の餌食となってしまった。
「むごい最期ですね・・・」岡っ引きのJP11が、顔をしかめて言う。
「ああ・・・酷い最後だ・・・」同心のJP3も言った。
「あれほどの犯罪者が、猫の餌になってしまうとは・・」
2人は腕のタイム・ブレスレットのスイッチを入れ、もと来た25世紀へと帰っていった。


ニャァ・・と甘えた鳴き声をたてながら、大きな三毛猫が満腹そうに男の足元に擦り寄っていく。
「ミケ之助よ!よくやった!」
その三毛猫を抱き上げながら、治郎吉が言った。
「俺は野ネズミよっ!ドブネズミじゃあないぜっ!」
三毛猫の背中の毛をなでながら、猫に向かって治郎吉が言う。
「屋根から落ちるのも、猫に食われた振りをするのも、すべて俺のたくらみどうりってもんよ!」
そして、ほくそ笑みながら、ラットマン治郎吉は言った。
「俺は死んじまったことになった以上、もう奴らも追ってはこんだろう」
「早く、かかぁんとこへ帰ろ・・ガキも待ってることだしな・・・」
そう独り言をつぶやきながら、治郎吉は八軒長屋へ帰っていったのだった。





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からくり大仏

2008年03月26日



からくり大仏

岐阜の金華山の麓に、江戸時代の匠「からくり甚五郎」が作った大仏がある。
座っている高さが10メートルあり、からくり仕掛けで動くと言われている。
そのほとんどが木で作られており、県の重要文化財にもなっていた。
大仏の鎮座する本堂は、住職の羽田常太郎が管理している。
普段は僧侶として生計を経てているが、いざというときには”からくり大仏”の操縦者となるのだ。
といってもこの大仏、江戸時代に作られたものである、空を飛べるわけでもなく火や水にも弱く、近辺の天変地異にしか活躍は期待できない。
そんなわけで、からくり大仏の活躍は人々の記憶から当の昔に忘れ去られていた。

しかし、いざという時にすぐさま活躍できるように、住職の羽田は大仏の整備を怠ってはいない。
今日も羽田住職は、大仏の背中にある観音開きの扉を開け、大仏内部の操縦席のからくり仕掛けの取っ手や計器類を掃除していた。
「大仏さんのからくりに埃りがたまっていては、罰があたるでのぉ」
住職の羽田は、もう60歳をとうに超えている。
先代の住職である父親から、からくり大仏の操縦法を教わって久しい。
羽田の息子は操縦法すら覚えようとはしない。
「からくり大仏も、ワシの代でおわりじゃて・・」
操縦席の埃を払いながら、羽田はさびしそうに言った。

晴天の空、金華山の上空は青く果てしなく広がっている。
岐阜は歴史的物件の多い町である。
金華山山頂の岐阜城は、斉藤道山が開いた城であり、麓には織田信長の居住跡がある。
麓にある岐阜公園から、山頂の岐阜城まではロープウェーが引かれ、乗客が景色を楽しんでいた。

突然、観光を楽しんでいる数十人の乗客を乗せたまま、ロープウェーが急停止した。
ガタンと急停止したショックで、乗客の吸っていたタバコがロープウェーから落下し、森林の枯葉に引火した。
枯葉に引火した火は、みるみる大きくなり、前代未聞の山火事となりつつある。
大惨事は連鎖反応で起きる!
故障で停止したロープウェーが、山火事の炎で焼かれようとしている。
乗客はパニックでなすすべも無く、泣き叫んでいる。

救急車や消防車のけたたましいサイレンの音を聞きながら、羽田住職が金華山の方角を見やった。
金華山の山林からモウモウと立ち上がる黒煙を見ながら、羽田は決意した。
「からくり大仏の始動のときが来たようじゃな!!」
住職は、急いで大仏に乗り込み、始動レバーを引いた。
ガタンと大仏本堂が二つにわれ、大仏が何十年ぶり、いや百年ぶりに直立したのだ。
ゴゴゴゴッ・・・と唸りながら、からくり大仏は本堂から出て、金華山の山火事の方角へと歩いてゆく。

「からくり甚五郎の匠の技を見せてしんぜよう!!」
羽田住職は、老骨に鞭打って力いっぱいレバーを引く!
ドシンドシンと地響きを立てながら、からくり大仏は巨大な身体をロープウェーへと移動させる。
山火事の炎が大仏の足に引火し、ジワジワと木造の足を焦がしていった。
「うむぅ!はやく乗客を助けなきゃ、大仏も燃えてしまうわい!」
羽田住職は、急いでロープウェーの下に大仏の手を差し出した。

「助けが来たぞ!」
「うぉぉ!あれが、伝説のからくり大仏なのか?」
「鉄人か!」
「ガンダムゥ~~!」
ロープウェーの乗客が、叫んである。

差し出した巨大な大仏の手に、乗客次々に飛び乗り、数十人の乗客たちは全員救出された。
その瞬間!
山火事の高温の炎でグニャグニャに溶けてしまったロープウェーの鉄塔が、ドーンと地面に倒れたのだった。
「危機一髪じゃった・・・」
羽田住職がつぶやいた。

山火事から脱出し、からくり大仏は安全な岐阜公園の広場に乗客たちを下ろしていく。
「助かった!」
「俺たち、生きてるぞ!」
乗客たちは興奮状態のまま、皆泣きながら抱き合って喜んでいる。
数台の消防車が、大仏の足元へ水を放水し、焦げる足の火を消している。
救急車が、乗客たちを地元の救急病院へと運んでいく。
山火事の炎の猛威は、何十台もの消防車で鎮火し始めたところだ。

足元を焦がした大仏は、本堂へゆっくりと歩いていった。
そして、もとの台座にドッカリと座り、安堵の息をついているように見えた。
本堂の中は、大仏の足の木の焦げた匂いが、うっすらと漂っていた。

その後、からくり大仏はニュースで話題になり、ニューヨークタイムスの表紙を飾り、日本の匠の技を世界に知らしめた。
大仏見学の観光客は、ひっきりなしに来訪して寺は繁盛した。
そして、からくり大仏の操縦も、羽田住職の息子が後を継ぐそうである。





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宇宙銭湯 松の湯

2008年03月25日



宇宙銭湯 松の湯

宇宙銭湯・松の湯は、浴場つきの旧式宇宙戦艦である。
和ープエンジンも昭和時代のものならば、転送装置もポンコツであった。
しかし、煙突のそびえる情緒あふれる宇宙船のデザインには、心引かれるものがあった。

西暦2300年、銀河の片隅の昭和星系に第三次惑星間銭湯戦争が勃発したのだ。
勢力は、昭和の旧式エンジンを搭載した昭和軍と、独裁者スパ王に支配された大型スパセンター系の最新式・平成宇宙銭湯戦艦軍団である。
この宇宙銭湯戦争は、もう50年以上続いているのであるが、最近は新たな勢力が台頭してきていた。
それは、秘湯系の原始力ワープエンジンを搭載した、秘湯温泉軍の台頭である。
秘湯温泉軍は、昭和銭湯軍に敵対していたが、最近和平条約の締結も噂になっている。
だが、昭和の銭湯軍と大型スパセンター軍との熾烈な戦いはまだ続いている。

宇宙銭湯・松の湯の艦長・松野為五郎は、メインデッキの番台に鎮座しながら言った。
「ここは昭和軍の領域である、ただちに撤退せよ!」
メインビューワーに映し出された大型スパセンター軍の敵船の艦長・スパ王が、せせら笑いながら言った。
「それがどうしたと言うんだね、娯楽施設も無い弱小戦艦が!しゃらくさい!」
大型スパセンター軍の宇宙戦艦には娯楽施設が搭載してあり、乗務員のご機嫌をとっている。

松の湯の艦長は言い返した。
「大型娯楽施設はないが、我々には卓球台とフルーツ牛乳があるぞ!」
その言葉に大型スパセンター軍の艦長・スパ王は、たじろいた。
「うむ・・・そのような旧式の秘密兵器を搭載していようとは・・・・うかつだった」
最新式の兵器には、大型スパセンター軍のフォースフィールドは強いのではあるが、旧式で原始的な兵器はフォースフィールドを突き破ってしまうのである。
「古きを訪ねて新しきを知るだ!」松野艦長は言った。
「わけのわからんことを・・・おぼえてろ!」
スパ王が悔し紛れに言い返し、そののまま大型スパセンター軍の宇宙戦艦は、松の湯に後ろを見せ、退却した。

技術主任の坂本三助は、艦長に言った。
「危ないところでしたね」
うなずきながら艦長が言う。
「卓球台といっても、もう使い物にならないくらい古びているし、フルーツ牛乳も実はコーヒー牛乳なんだからな」
「ハッタリが利きましたね」技術主任が言う。
「人生、みんなハッタリだって!」艦長が高らかに笑いながら言った。
「今回は、何事も無く無事に切り抜けたが、まだ危険が去ったわけではない、十分に警戒してくれ!」
艦長の松野為五郎は、乗組員全員に力強く訓示したのだった。

突然、銭湯全域に警戒警報が、けたたましく鳴り始めた。
「艦長!さっきの大型スパセンター軍が援軍をひきつれて、また攻撃してきます!」
「やはりな、あれで終わるとは思わんかったよ!」
艦長は番台から立ち上がり、若干あせっている。

メインビューワーに、敵艦の艦長・スパ王が映し出された。
「為五郎艦長、降伏しろ!これだけの多くの最新式宇宙銭湯にはかなうわけがないぞっ!」
不敵に笑う敵艦艦長・スパ王を尻目に、松野為五郎は言った。
「我々は、戦わずして降伏などしない!おぼえておけ!」
「これでもかな?」スパ王が新たな人物の映像を映し出した。
「どうだ、秘湯温泉軍のリーダーも我々の味方になったぞ!」
メインビューワーに移された秘湯温泉軍のリーダーの醒ヶ井門左衛門が言った。
「松野為五郎君、もう抵抗は無駄だ、ただちに降伏せよ!」
「あっ、門左衛門さん!裏切ったのですね・・・」
松野艦長が愕然として言った。

「裏切ったのではないよ、秘湯温泉も金しだいという訳なんでね」
秘湯温泉軍のリーダーが、親指と人差し指を丸くして言う。
「門左衛門さん・・秘湯は守らなければいけないと言っていたじゃないですか」
松野艦長が切り返して言う。
「所詮、秘湯などといっても客がこなけりゃ、ただの生暖かい水溜りにしかならないご時勢なんでなぁ!」
秘湯温泉の艦長が言った。

「秘湯温泉軍も我々と手を握ったぞ!観念したらどうだ、松野艦長!」スパ王がせきたてて言う。
「うむぅ・・・もはやこれまでか・・・」
松野艦長があきらめかけた、その時・・・!
敵味方にらみ合っている宇宙の彼方から、重要文化財級の超大型宇宙銭湯・富士の湯が現れた。
重要文化財級の超大型宇宙銭湯・富士の湯の側面には、富士山がペンキで気高く描かれてあり、敵味方を威圧した。

「この富士山金四郎が来たからには、この宇宙域での悪行は許さねぇぞっ!」
富士の湯・艦長・富士山金四郎は、敵艦の全員に啖呵を切ってみせた。
「金さん!グッドタイミングだぜっ!」松野艦長が言った。
「おうっ!いいってことよ!こちとら昭和っ子でい!不正なことは大嫌れいよっ!」
金四郎艦長がそう言うが早いか、敵船のエンジンにむかって富士山級の光子魚雷を数発浴びせかけた。

敵艦に光子魚雷が命中!
スパ王の軍団も秘湯温泉軍団も、蜘蛛の子を散らすように宇宙の彼方へ逃げ去っていった。

「金さん・・ありがとう、あぶないとこだったよぉ・・」
涙を浮かべながら言う松野艦長に向かって、富士山金四郎艦長が言う。
「お互い様よ!いつものとーり昭和の銭湯どうし助け合うのが情けっていうもんじゃないのかいっ!」
「そーだね・・あじがどぼ・・・」
松野艦長の言葉が、涙で濡れて言葉にならなかった。

宇宙銭湯・松の湯と富士の湯は、そのまま昭和星系にむかって進路をとったのだった。
  

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駅マニア

2008年03月24日



駅マニア

鉄道マニアといっても多種多様、色色な鉄オタが居る。
車両オタクが一般的ではあるが、駅マニア、駅弁マニア、線路マニア、車内販売の売り子さんの制服マニアというものまである。
私の場合は駅マニアといってもよいだろう。
駅は、どこか他の世界へと誘ってくれる出発点である。
駅を見ていると、別の世界別の暮らしが想像でき、それだけで旅行にいったような気分に浸れる。

線路も好きである。
幾何学的な線路の曲線はセクシーですらある。
いくつもの曲線が織り成す「鉄の芸術」といったならば、納得してもらえるだろうか。
車両に関しては子供の図鑑程度の知識しかないのであるが、嫌いというわけでもない。
金属の固まりでありながら、どこか生物的なその姿は、やはり魅力的ではある。

今日も今日とて、私はローカル線の駅を撮影に来ていた。
駅全体や運賃表まで撮影しながら、駅の風景を堪能していた。
ひなびたローカル線なので、駅には誰も居なかった。
駅構内に入って線路など撮影していると、どこから現れたのか白ずくめの男が私に近づいて来た。
たいそうに時代がかった白いシルクハットなど被っている。
男が私に向かって言った。
「あなたは次の列車に乗らなければなりません!」
唐突に意味不明なことを言う男に危険を感じて、私は少し後ずさりして言った。
「いや、僕は写真を撮っているだけなので、列車には乗りませんよ」
白い男が首を振って言う。
「いや、あなたは次の列車に乗る運命なのですよ」
感じの悪いその男に向かって、私は強く言った。
「車で帰るので、列車には乗らないよ!」
男はしつこく言う。
「次の列車は普通の列車ではありません、天国行きの列車なのです。あなたの寿命は本日終了します」

「あんた、頭が変なんじゃないのか?」
私は気味悪くなって言う。
白い男が、私に微笑んで言う。
「いいえ、私は天使なのです。
場所によっては死神とも呼ばれてますが・・・。
まぁ、名前なんぞどうでもいいことにして、今日はあなたを天国にお迎えに来たのです。
だれでも行けるという天国ではありませんよ、あなたは選ばれたのですよ。
ラッキーですね!」
私は不機嫌になって言い返した。
「ラッキーなもんかっ!天国だろうと地獄だろいうと死んでしまえば同じことよっ!」

そんな押し問答をしているさなか、突然見たことも無い種類の列車が、くだりの方角から線路の上に音もなく現れた。
骸骨のような男の手が、私の左腕をギュッと掴んで離そうとしない。
「さあっ!行きましょう!きらめく天国へっ!」
「いやだぁぁっ!!」
私は叫びながら、男を足で蹴飛ばし、ホームの下へ突き落とした。
その瞬間に、男の腕の肘から手までの半分が引き抜かれた様にちぎれて、私の腕に執念深く食い込んだまま気味悪く残った。
そして、一瞬に列車が男を吹っ飛ばし、列車はホームに停車した。
私は、残っている骸骨のような男の手を引き離し、思いっきり捨てようとしている。

「私の手、返してくださいよ・・・」
列車に吹き飛ばされたと思った白い男が、唐突に私の背後から言う。
「うわっ!・・・生きてたのか・・」
私は後ろを見ながら言う。
「もともと生きているわけではないので・・・」
男が薄ら笑いを浮かべながら言う。

私は捨てようとしていた男の手を返しながら言った。
「天国なんかに行くもんか!」
「そうですか、残念ですね。いい所なのに・・・」
白い男が、さも残念そうに言った。
そして続けて言う。
「この世で、散々苦労するより、天国で楽したほうがいいのに・・・
わかりませんねぇ・・・
せっかくのチャンスなのに・・・
もう50年間は、こんなチャンス巡ってきませんよぉ」
男が言うことなどを聞かない振りをして、私は列車のドアが音も無く開くのを眺めていた。

無言のままでいる私を凝視しながら、白い男は一礼をしながら開いたドアから列車に乗った。
そして、上りの方角へゆっくりと動き出すと、列車はじんわりと消えてしまった。
  

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梅鼻商店街

2008年03月23日



梅鼻商店街

思いのほか仕事が片付くのが早かったので、私は昔通っていた梅鼻高校方面に、ちょっと足を伸ばしてみることにした。
梅鼻は”梅の花”が転化したものではなく”産め鼻”が変化した地名なのだ。
神様だか巨人だかの鼻から生まれた土地が梅鼻という伝説があるらしい。
私の通っていた高校から7・8分歩いた所に、梅鼻商店街という繁華街がある。
繁華街といっても名前ほど大そうなものではない。
100メートルほどの広い路地のような商店街である。
とは言うものの、私の高校時代は大変賑わっていた。
生活必需品は言うに及ばず、映画館やスーパーマーケットもある当時としては洒落た商店街だった。

「そういえば虎屋の”揚げおだまき”なんてまだあるのかな?」
突然、懐かしい和菓子のことを、私は思い出した。
揚げおだまきとは、薄いカステラのような生地に小倉餡を巻き込んだ、10Cmくらいの枕状のドラ焼きみたいな菓子を、天麩羅にして揚げたものである。
脂っこいうえに高カロリーで、育ち盛りの高校生にはたまらない高級な駄菓子であった。
高校の頃は、放課後のクラブ活動の合間に毎日のように食べた記憶がある。
当時は、20円か30円かだったと思うが、もうはるか昔のことなので定かではない。
頭に唐突に浮かんできた懐かしい駄菓子を急に食べたくなり、私は車を梅鼻商店街に向けた。

商店街に近づくにつれ、昭和の雰囲気が濃厚に漂ってくる。
30数年前と変わらないような家々が、車のフロントガラスに映し出される様子は、まるで映画を見ているようだ。
格子戸の整った民家や看板建築の自転車屋、店先に野菜を並べる八百屋に鄙びた手書きの看板が立ち並ぶ駐車場。
どこを切り取っても昭和の風景だった。
「たしか、この通りが梅鼻商店街だったと思うんだが・・」
私は30数年前に記憶をたどり、細い路地を右折した。

とたんに賑やかで活気に満ちた商店街が目に焼きついた。
豆腐屋のラッパが聞こえ、八百屋のオヤジが今日のお値打ち品を叫んでいる。
道行く人々は笑顔で会話を交わし、笑顔に満ちていた。
「不思議だなぁ・・」私は懐かしさを覚えながらも奇妙な気持ちが抑えられなかった。
「まるで、当時のままじゃないか・・?」
ありえない光景を目の当たりにして、私の心が動揺している。
車の窓から見える商店街の光景は、紛れも無く昭和の風景だ。
そこうしているうち、見たことがあるような高校生の男女が、私の車の横を通り過ぎていく。
「あっ・・・!」私は、思わず声をだしてしまった。
なぜなら、その高校生は私と私の初恋の人だったのだ。
私はブレーキを思いっきり踏んで、車を止め、ドアを開けた・・

・・・だが、
そこには寂れて人気のほとんど無い商店街が死んだようにあるだけだった。
賑やかで活気のある商店街は消え去り、現実の商店街がそこには横たわっていた。
寂れて生き絶え絶えの商店が連なる、瀕死の昭和が泣いていた。

「やはりな・・・」
私は、先ほど見た幻覚を思い出しながらも、現実を見せ付けられた心持である。
もう、この商店街は寂れ果てて長い時間が経っているのであろう、営業している店も数点あるのみで、その店さえ活気など皆無である。
老人や老女が店番をしながら、死を待っているような光景に、胸が痛んだ。

あの懐かしい虎屋の”揚げおだまき”などあるはずもないであろうが、万が一ということもある。
近くの閑散した店の老女に聞いてみることにした。

「あの、すみません虎屋の”揚げおだまき”って、まだありますかね?」
私は、店の老女に丁寧に聞いてみた。
「ええ・・虎屋の”揚げおだまき”なんて、ここにありゃせんよ」
無愛想に答える老女の目に生気が無い。
「ドラ焼きの天麩羅みたいなお菓子なんですけど・・」
私は聞きなをしてみる。
「そんなもん、聞いたこともない!」
老女は不機嫌そうに言う。

私はいやな気分になっていくのを感じていた。
老女の言葉も嫌な雰囲気だが、老女自体も不快で悪意に満ちた空気を放っていた。
これ以上聞いたところで不愉快になるだけだ。
私は、気分の悪さを出さないように、会釈をして車に乗った。
そして、エンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させた。

商店街を通り過ぎるころバックミラーに写った家々を覗いた。
商店街の家々が廃墟のような形相で、一瞬ゆらゆらと揺らいで見た。
そのとき、私は思ったのだった。
「商店街の亡霊というものが存在するのかもしれない。
悪意に満ちて、生気を吸い取ってしまうような・・・
あの町全部が亡霊だったのだ・・・・」と。
私は、背筋に悪寒を感じながら、、急いで町を後にしたのだった。
  

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昭和猫町

2008年03月22日



昭和猫町

その町は、観光で生計を立てている。
古い町並みや懐かしい商店が立ち並ぶ光景は、昭和そのものが生きているかのようだ。
ただ少し変わってることがある。
変わっているのは、この観光地を作っている人たちのことである。
この町に住んでいる人は、人ではない。
文字どーり”人”ではなく、狐狸・化け猫のたぐいなのだ。
化け猫たちが人に化け、昭和の町を作っているのだ。
ひょっとして現実など無く、幻影を見せられているだけなのかもしれない、という噂も流れているが、町は繁盛している。
昭和を懐かしむ人々が、週末になるとワンサカ押しかけて、町はごった返す。
私も、そんな人々につられて、昭和の町を楽しんでいる。

ここを訪れる人々は、ここが化け猫の町であることを承知でやってくる。
化け猫といっても悪さをする訳でなく、懐かしい昭和を見せてくれるのだ。
むしろ、よいことをしていると言ってもよいのかもしれない。
みやげ物は本物で、馬糞や泥団子を売りつけているのでもなければ、町にある温泉も肥溜めではない。
猫たちが、どのようなルートで本物を仕入れてくるのかは不明であるが、今時メイド・イン・ジャパンのみやげ物には定評があった。
名物の猫町団子は、やわらかい高級な求肥の中にトロリとした胡麻の餡が入っていて、絶品である。
また、町に唯一の温泉”猫町温泉”の湯は、まろやかで温度も適温、まったりしたやさしいお湯はリューマチや筋肉痛に良く効くと評判がいい。

観光土産屋だけでなく、昭和っぽい店も立ち並んでいる。
いかにも昭和っぽい雰囲気で古本を売っている”三毛猫書店”
昭和の駄菓子を売る”虎猫屋”
ラーメン屋ではなく、しなそばを売る”猫猫軒”
ハヤシライスが評判の”レストラン・チシャ猫”
古い電化製品を修理して売ってる”ワイルド・キャット電気店”
どれをとっても昭和的で、昭和マニアの痛いところを突いてくる粋な店構えだった。

そして、この町で使われるお金は”食べ物”そのものである。
とくに魚類が良いとされている。
日本のお金を両替するというのではなく、ただ鯵の干物とかメザシとかを持って町に入れば、いつの間にかお金になっているのである。
ただ、ちょっと生臭いお金ではあるが、形はお金そのものになっている。


私が昭和猫町を訪れたのは、今回で3回目である。
なんだか、町初めての映画館が出来上がったということらしい。
映画好きの私としては、昭和の懐かしい映画が見れるというので、今日ここにやってきたのだ。
町をぶらぶら歩いていくと、町の中心あたりに映画館は建てられていた。
木造の昭和のレトロな映画館だ。
入り口辺りにはポスターが貼ってあり、ガラス越しに見えるスチール写真は白黒で、昭和心をくすぐる。

「今日の映画は”植木等の無責任男”と”加山雄三のハワイの若大将”か!」
私は、看板を見ながら切符を買った。
そして入り口のもぎりの若者に切符を渡した。
もぎりの若者は、私に向かって言った。
「あっ!ご主人さまじゃないですか?」
私は何のことか分からず、きょとんとしていると、男が言う。
「僕ですよ、ほら、あなたに飼われていたタマオですよ!」
懐かしそうに言うその男に見覚えがあるような気がしてきた、そして言った。
「君はわたしんちのタマオかい?化け猫になったんだね!」
懐かしい気分になって、私はタマオの手を握っていた。
「猫も8年以上生きると化け猫になるといいますが、そのように僕も化け猫になりました」
自慢げに言うタマオの顔に、猫のヒゲが一瞬見えたような気がした。
続けてタマオが言った。
「ほら、ご主人の飼っていた犬のポチオも居ますよ」
「えっ!ボチオまで居るのか?」私が驚いていると。
「ええ、いま映写技師をしていますよ」タマオが言う。
「犬も、化けるんだね・・」私が感慨深げに言う。
「犬は10年以上生きると、化けることが出来るようになるんですよ」タマオが言う。
「ほほう・・初耳だね!」私が驚き加減に言う。
「2階の映写室までご案内いたします」
そう言うタマオの後に続いて、私は映写室に行った。

映写室には中年の太った男が、映写機の点検をしていた。
私が入ってくるなり、男は言った。
「ワンワン!・・・あっ、いけない、つい昔の癖が出ちまったぜ・・」
そう言っている男のお尻に、一瞬犬の尻尾が見えたような気がした。
私が懐かしい気分で言う。
「ポチオかい・・いいオヤジになったね・・・」
「いやぁ、なんとなくこの姿が気に入ってるんで・・・」
妙に照れくさそうに言うポチオが可笑しくて、つい微笑んでしまった。
「今日は、この映写室で見てってくさいよ」ポチオが言った。
そして私は、ポチオとタマオが勧めるがまま、二階の映写室の窓から映画を堪能させてもらった。

映画が終わった頃、外はもう夜だった。
星空が綺麗な夜で、私はさらに良い気分になっていた。
昭和猫町の夜は星空に映え、まだ眠りには付かないようだ。
  

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